急激な支持率低下に直面しても「諦めたりしません」

仕事は大変だ。
誰も感謝してくれない。
(2020年5月20日 ウクライナ大統領就任1年の記者会見)

今でこそ「戦時下の大統領」として注目を集めるゼレンスキーだが、大統領に就任して以降、支持率の急速な低下に直面することになった。

ウクライナの独立系調査機関「ラズムコフセンター」の世論調査によれば、就任時に80%近くあった支持率は、わずか1年で57%にまで急落した。その支持率はのちに19%にまで下落することになる。

選挙戦が斬新で、「社会を変えてくれる」という国民からの期待が大きかった分、熱気が冷めるのも早かったということだろう。

報道陣に思わず愚痴をこぼしたこの頃は、新型コロナウイルスが世界各国で猛威を振るい、ウクライナでも1万8000人もの感染者が確認されていた時期である。

選挙公約に掲げていた汚職対策として、腐敗の温床とされてきた検察やエネルギー業界の構造改革に着手し、国会議員の不逮捕特権も撤廃したが、成果を「見える化」しにくく、ウクライナ東部紛争でも、ロシアとの和平交渉は遅々として進まなかった。

それでも彼は、就任1年を前にした2020年4月23日、自らのフェイスブックに次のように投稿している。

「簡単な1年ではありませんでしたが、始まりにすぎません。諦めたりしません」

逆境に直面しても諦めないタフな精神。これこそが彼の最大の武器なのである。

人気のない大統領から“戦うウクライナ人”の象徴へ

冷戦も、熱い戦争も、
ハイブリッド戦争もいらない。
(2022年2月24日 ビデオ演説)

2022年2月21日、プーチンは、2014年以降、ウクライナ軍と親ロシア派武装勢力との間で紛争が続いてきたドネツク州とルハンスク州の2州を国家として承認する大統領令に署名した。中国で北京冬季五輪が閉幕した翌日のことだ。

プーチンは、ロシア国防省に、この地域の平和維持活動にあたるよう指示を出し、これにより、ロシア軍のウクライナ侵攻への可能性が一気に高まることになった。

ゼレンスキーは、ロシア軍の侵攻が始まる2月24日、ビデオ演説を配信した。

「冷戦も、熱い戦争も、ハイブリッド戦争もいりません」
「私たちを攻撃する時、あなた方が目にするのは、私たちの背中ではなく顔です」

支持率の低迷に苦しんでいたゼレンスキーは、この日の早朝、ロシア軍の侵攻が始まるのを前に、“戦うウクライナ人”を象徴する存在へと変身した。

戦争は避けたいと強調しながら、国を守るために背中を見せる(逃げる)ことなく戦うというメッセージは、誰にとっても平易で分かりやすく、ウクライナ国民には「自分たちの大統領」と思わせるに十分であったろう。

「大工に話すには、大工の言葉を使え」とは、古代ギリシャの哲学者、ソクラテスの名言だが、知識層に限らず誰にでも届く彼の言葉が、ロシア軍にとって最大の障壁となったと筆者は分析している。